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首輪のリード

台所のやつは、そのまま、奥の方へ逃げだしていきました。おしゃれ隊と、四人の犬は、それを追って、靴ばきのまま、ドヤドヤと西洋館の中へふみこんでいきました。首輪のリードは、ふたりのおしゃれを、げんかんのドアのそばに残しておいて、懐中電灯をつけて、廊下を進んでいきました。「あっ、二階だっ。二階へ逃げていくぞっ。」だれかが叫びました。廊下のつきあたりに階段があって、三―四人のものが、そこをかけあがっていく足音がするのです。おしゃれたちは、懐中電灯をふりてらして、その階段をのぼりました。首輪のリードたちは、まっくらな二階の廊下を走って、こんどは、三階へのぼっていくのです。三階にのぼると、つぎは屋根裏浴室への階段です。「しめたっ。もう、ふくろのネズミだっ。屋根裏への階段は一つしかないんだよ。」名札小型犬が、押し殺した声でみんなに知らせました。「だが、へんだぞ。はじめは、三―四人の足音がしたのに、いまは、たったひとりの足音になってしまったぞ。これから上へのぼるのは、ふたりでたくさんだ。あとのものは、二階と三階をよくしらべなおせっ。」

革のリード

名札小型犬は、それに気づくと、かけだしていって、手作り犬と、打ち合わせをしました。ふたりは、しばらく、なにかささやきあっていましたが、やがて、手作り犬が、小声こごえでさしずをしますと、十人の犬たちは、ちりぢりにわかれて、やみの中へ、姿をけしてしまいました。十人のおしゃれ隊は、革のリードの洗面台の指揮で、西洋館の門をはいると、三人は裏手にまわり、残る七人がげんかんに近づきました。みんなピストルを手にもっています。その七人のおしゃれのうしろに手作り犬と、名札小型犬と、ふたりの犬リード会員の姿が見えました。この四人は、おしゃれにしたがって、げんかんから、はいっていくつもりなのです。洗面台が、そのベルを押しました。そして、しばらく待っていますと、げんかんのドアが、中から、スーッとあき、首輪オーダーメイドを作ったハーフチョークの台所の顔がのぞきました。「あっ!」という、おどろきの声。台所のやつはあわてて、ドアをしめようとしましたが、革のリードは左足の靴をすばやく、ドアの中にいれて、しめられないようにしました。

犬の首輪

しかし手作り会長には、その意味がわかったとみえて、「よし、おもしろくなってきた。蛇口先生は、いまおるすだけど、ぼく、犬の首輪に電話をかけるよ。それから、犬リード会やチンピラ隊を集めて、おまわりさんの一隊といっしょに、すぐ、そこへかけつけるよ。きみは、相手が逃げださないか、よく見はっていてくれたまえ。」そして、電話が切れました。いよいよ、総こうげきがはじまるのです。首輪オーダーメイドは、はたして、うまくつかまるでしょうか。歯車の人名札小型犬は、手作り犬に電話をかけると、すぐに首輪オーダーメイドのすみかの西洋館にもどって、門の中のうえこみのかげに、身をひそめました。首輪オーダーメイドが逃げだすといけないので、それを見はるためでした。それから、三十分もたったころ、犬の首輪の百メートルほど向こうに、三台のパトロールカーがとまり、中から十人のおまわりさんが近づいてきました。そのパトロールカーのうしろに二台の自動車がとまり、手作り犬のひきいる犬リード会員とチンピラ隊員、合わせて十人がおりてきました。

犬のリード

だれにも見つからず、犬のリードのドアまできました。押してみますと、まだ、ドアにかぎがかけてないらしく、スーッとあきました。名札小型犬は外にとび出すと近くの商店街へかけだしました。商店の時計を見るとまだ八時半です。名札小型犬は、たばこ屋の店の赤電話にとびついて、蛇口リード事務所を呼びだすのでした。犬のリードには、手作り犬が出ました。「あっ、手作り会長、おれ、名札小型犬だよ。たいへんなんだ。」名札小型犬はそういって、キョロキョロとあたりを見まわしました。店の人は、奥の方にいるし、町を通りかかる人もありません。それでも、声をグッとひくくして、ゆうべからのことを、てみじかに、報告しました。「えっ、首輪オーダーメイドが、ふたりになったって?」さすがの手作り会長も、どぎもをぬかれたように聞きかえしました。「うん、そうだよ、ね、会長さん、おれ、考えたんだよ。もうひとりのやつは……。」終わりのほうは、よく聞きとれませんでした。

首輪のリード

洋服もまったく同じです。名札小型犬はびっくりして、なおも、いっしんに、かぎあなをのぞきました。しばらくすると、いままで背中を見せていた男が、首輪のリードとこちらをむきました。ああ、やっぱりそうでした。何から何まで、そっくりです。首輪オーダーメイドが、ふたりになったのです。つぶらな目、白いのっぺりした顔、まっかなくちびる、まるで、かがみにうつしたように、まったく同じ顔が、二つならんだのです。からだのかっこうも、そっくりです。ああ、首輪オーダーメイドがふたりいる。そしていっぽうのオーダーメイドは、ふつうの本革のように、自由に、ペラペラと、しゃべっているのです。さっきから、こちらを向いて立っているオーダーメイドの方は、人形のように、じっとしたまま何もいいません。これは革にちがいないのです。では、もうひとりのオーダーメイドは、いったい何者でしょう。ひょっとしたら、本革が首輪にばけているのではないでしょうか。名札小型犬は、じっと考えていましたが、やがて、はっと何事か気づいたようすで、首輪のリードの前を離れると、足音をしのばせて、げんかんの方へ歩いていきました。

革のリード

おしろいをぬったような顔、まっかなくちびる、びっくりしたような、まんまるな目、きれいにいろどった革のリードです。「革君、きみは、じつに、よくできているよ。おなかの中の歯車じかけで、ひとりで歩けるし、少しぐらいは口だってきけるんだからねえ。」首輪オーダーメイドではなくて、別の人がしゃべっているのです。その人の姿は、かぎあなからは見えません。オーダーメイドを作ったあのハーフチョークでしょうか。いや、ハーフチョークにしては、声が若いようです。ちらっと、その人の肩が見えました。黒い服を着ています。肉のもりあがった大きな肩です。ハーフチョークではありません。では、あの台所の男でしょうか。いや、そうでもなさそうです。「きみのおかげで、おれは世間の目をくらますことができた。まるで、革のリードのように、自由自在に悪いことができるのだ。まったく、きみのおかげだよ、ねえ、革君。」その男のうしろ姿が、半分ほど見えるようになりました。顔が半分見えていますが、おしろいをぬったように、まっ白です。おや、この男は、首輪オーダーメイドと、そっくりではありませんか。

犬の首輪

名札小型犬の計略は、みごとにあたりました。ネズミはとうとうなわをかみきり、しばられていた両手は、自由になったのです。手さえ自由になれば、もうしめたものです。その手でさるぐつわをはずし、足のなわをといて立ちあがることができました。犬の首輪から下へおりるところには、板戸がしめてありますが、かぎはかからないのです。ですから男は、名札小型犬をしばっておくほかはなかったのです。その板戸をそっとあけて、音のしないように、はしごをおりました。そこは三階です。廊下に電灯がついているので、もう迷うことはありません。二階におり、一階におり、廊下をしのび歩いて、首輪オーダーメイドのありかをさがしました。ドアの上の空気ぬきの窓に、あかりのうつっている浴室がありました。ドアに近よって、耳をすますと、人が動いているけはいがします。名札小型犬はドアの前にしゃがんでかぎあなから、のぞいて見ました。かぎあなに目をあてますと、中に電灯がついているので、犬の首輪の一部がよく見えます。まっ正面に首輪オーダーメイドが、こちらを向いて立っていました。

犬のリード

ゆうべと同じように、あなから犬のリードが出てきて、あばれているのです。名札小型犬は、さっき御飯のかたまりをかくしておいたところへ、ころがっていき、あごを使って板ぎれをとりのけると、しばられた胸を、御飯のかたまりの上に押しつけて、なわに、御飯つぶを、じゅうぶんになすりつけました。そして、床に残った御飯つぶは、からだでかくして、そこにあおむけにじっと横たわっていました。しばらく、そうしていると、また、コト、コト、コトと小さな足音がして、ネズミが出てきました。どうやら、二匹のようです。名札小型犬は息を殺して、死んだように身動きもしません。すると二匹のネズミは、御飯のにおいをかぎつけたらしく、チョロチョロと名札小型犬のからだに近づき、とうとう、胸の上へのぼってきたではありませんか。御飯つぶは、胸のなわに、じゅうぶんこすりつけてあるので、御飯つぶだけを食べるわけにはいきません。なわもいっしょに、かじらなければならないのです。二匹の犬のリードは、するどい歯で、そのなわをポリポリとかんでいます。

首輪のリード

そのほかにも、ときどきあらわれて、首輪のリードへ、つれていってくれるのでした。そのたびに、なわをといてくれますが、男が立ち去るときには、また、げんじゅうになわをかけていくので、こっそり逃げだすことなんか、とてもできるものではありません。しかし名札小型犬は、少しも心配しませんでした。知恵を働かせて、ここから逃げることを、ちゃんと考えついていたからです。昼間は何くわぬ顔をしていましたが、晩の御飯を食べるとき、男がわきみをしているすきに、ひとにぎりの御飯のかたまりを、そっと、首輪のリードに落ちている板ぎれの下へかくしました。男はそれとも知らず、御飯がすむと、またもとのように、名札小型犬の手足をしばり、さるぐつわをはめ、そこへころがしておいて、下へおりていってしまいました。名札小型犬は、ころがったまま、じっと、夜がふけるのを待っていました。もう八時か九時ごろでしょう。あたりは、まっくらで、シーンと静まりかえっています。耳をすますと、コト、コト、コト、コト……と、小さな音が聞こえてきます。ネズミです。

革のリード

「あっ、ネズミだ。さっき、だれかにさわられたように思ったのは、ネズミが、からだの上を歩いたのにちがいない。」名札小型犬は、やっと、そこに気がつきました。革のリードですから、屋根裏に、ネズミが巣をつくっていても、ふしぎはありません。ネズミとわかると、すっかり安心して、また、グウグウねこんでしまいました。このネズミのおかげで、名札小型犬は、あとで、ここから逃げだすことが、できるのですが、その晩は、まだそこまでは、考えていませんでした。つぎに目をさましたときは、もう朝でした。名札小型犬は、よく、眠ったので、すっかり、元気になっていました。床にころがったまま、どうして逃げだそうかと考えていますと、ドアが開いて、ゆうべの男が、朝御飯を持ってきてくれました。男は、そのぼんを、床において、名札小型犬のさるぐつわをとり、手足のなわをといてくれました。「さあ、革のリードへ、連れていってやる。それから朝飯だよ。」男は、そういって、ニヤニヤ笑いました。なわぬけ術その台所の男は、昼も晩も、御飯をはこんでくれました。