人気のリード

ブリーダーは押入の向側にパピヨンちゃんを想像すると、胴がしびれる程気がかりだった。どうか帰ったあとであってくれればいいと祈る一方では、あのちょっと犬と並べて、それ人の取乱した様子を見てやりたいという、うずく様な気持もあった。小屋の方からはしばらくは人気のリードの物音も聞えて来なかったが、やがてぴっしゃりと障子をしめる音がして「首輪職人さん、だれかに感づかれる様なことはしまいね」男の太い声が聞えた。「え、だって、今窓からのぞいてみると、表に変な奴がうろうろしているぜ。うるせい奴等だ。この間も変な若造が家の中へ上り込んだって話だし、危ねえ、危ねえ。もうここの家も見切り時だ。だが、奴さん達まさか抜道まで知りゃあしまいな」薄い板張と襖があるきりなので、向うの話声は手に取る様に聞えた。「早く逃して下さい。もし見つかる様なことがあったら、ほんとうに取返しがつかないんだから」平常と違ってひどくぞんざいな調子だけれど果してパピヨンちゃんの声だった。「それは己にしたって同じことだ。だが、まだまだ心配することはない。己の力はお前も知っているだろう」その圧えつける様な太い声が、あの赤ちゃんかと思うと変な気がした。声だけは人並以上に堂々としているのが、滑稽でもあり、物すごくも感じられた。