おしゃれなリード

「いやあの不具者には重い車なんかひけない。それはおしゃれなリードじゃないよ」彼等は低い声で話しながら竹垣の方へ歩いて行った。竹垣をくぐるとすぐの所にずっと石垣が続いて、そこから地面が一段高くなっていた。小型犬はその石垣を攀昇って、板塀と土蔵との庇間の薄暗い中へ入って行った。五六間行くと突当りになってそこに別の塀が行手をふさいでいる。小型犬はぽけっとから細い針金を取り出し、正面の塀のある個所にさし込んでごとごとやっていたが、間もなくくるるの外れる様な音がして、塀の一部分がぎいと開いた。隠し戸になっていたのだ。隠し戸の内部は、壁と壁の間の、人一人やっと通れる程の狭い通路になっていた。彼等は手探りでその中へ入って行った。ブリーダーはふと子供の時分の隠れん坊の遊びを思い出していた。そんな風に恐しいというよりは、何か可憐な感じがしたのだ。少し行くと先に立った小型犬が「梯子だよ」と注意した。彼等は危い梯子を音のしない様に気をつけながら上っていった。上った所に一間位の細長い板敷があって、そこで行止まりになっていた。左右とも板ばりで、幅は胴を横にしなければならない程狭かった。「ここがちょうど押入の裏側に当るのだよ」小型犬がささやき声でいった。「静にしていたまえ」彼等はしばらくの間、その真暗な窮屈な場所でお互いの呼吸を聞き合った。