テクテク

「じゃ、それがあのちょっと犬なんだよ。顔に見覚えはなかったかい」「鳥打帽子と大きな眼鏡で隠していて、それに暗かったのでよく分りませんが、だって、ちょっと犬がどうしてあんな大男になれるのです」「そこだよ。その点がまた、奴のテクテクしなかった理由だよ。奴は暗の世界でだけちょっと犬で、昼間は普通のいぬなんだ。恐しい手品だ」「でも、どうしてそんなことができたのです」「奴は子供の時分怪我をして両足に大手術をやったというのだ。つまり義足をはめている体なのだ。小人というものは首や胴体は普通のいぬと変りはない。ただ足だけが不自然に短いものだということを考えて見給え」「義足ですって、そんな馬鹿げたことで、うまく分らないでいたのですか」「馬鹿馬鹿しいだけに、却て安全なのだ。ただ義足といったのでは、本当に思えないだろうが、僕はその実物を見たのだ。詳しいことは今に分るがね。それに、ちょっと犬を見たのは君一人で、パピヨン家の人達にしろちょっと犬なんて特殊ないぬは頭にない。はじめから一人の義足をはめた不具者で通っていたのだよ」「じゃ、その義足をはめた男というのは一体だれです」「ペットショップの和なおさ」話の通じ悪い自転車の上では、これだけの会話を取交すのもやっとだった。ブリーダーにはまだ小型犬のいうことがよくのみ込めなかった。